うろうろしながら楽しく町を堪能し、城内に辿り着けば、やたらと賑やかしくも物騒である。

 なにせ祭りの最中だというのに、門番が腰に剣を帯びている。そして、昨日訪れた時分よりも配備されている人数が多かった。

「昨日、こんなに門番さん居たかしら?」

 キャルの素朴な疑問に、ラオセナルが首をかしげた。

「はて。何かございましたかな?」

 そこに、足取りも軽やかに見知った麗しい顔が現れる。

「いらっしゃいませ!」

 軽やかな足音と共に三人を出迎えたのは、既に顔馴染みとなったガンダルフ王が三女、メアリティア・フォン・フィオーレ王女だ。

「あんな危険な目に遭われましたのに、また当家においで下さるなんて!わたくし達からお伺いいたしましたのに」

 祭りでにぎわう城内の、手前にある小さな客間に案内しながら、王女が申し訳なさそうに眉を下げた。

「いいえ、そんなお気を使われずに。僕たちがこの町をお暇する、その御挨拶に来ただけですから」

「通交証も、お洋服もいただいたのに、お礼もしないで出て行くのは嫌だもの」

 訪問客三人をゆったりとしたソファに座らせると、メアリティア王女は用意していたチョコレートケーキと紅茶を、控えていた使用人にセットさせて退室させた。

「海賊王様たちも海へお帰りになられて、少しさみしいと思っておりました。ですから、おじ様とセイン様とキャルちゃんに来ていただけるのはとても嬉しい事ですけれど、ひとつ、残念なお知らせがございますの」

 自身も、三人を座らせたソファの近くの椅子に座って、紅茶のカップを手にとると、王女は申し訳なさそうに眼を伏せる。

「ああ、捕らえていたザラムントの王子とその従者が、逃げ出しでもしましたか?」

 セインが、紅茶を一口含んで、渇いた喉を潤しながら、王女の言葉尻をとらえて、さもそうなる事を予見していたと言わんばかりに口にした事柄に、王女は眼を見開いた。

「知ってらして?」

「いいえ。しかし、そうなるだろうなとは思っていましたよ?」

「さすが賢者様ですわね」

 既に分かっていると微笑むセインに、王女は頷いた。

「このような事態になってしまいましたのは、当家の不手際の成すところ。せっかく捕えていただきましたのに、申し訳ございません」

 深々と頭を下げようとする王女を、セインが手を伸べて留めた。

「王女が軽々しく人に頭を下げるものではないよ。それに、彼らの脱走については、たぶん、国王も分かっていたことだと思うし」

 そのセインの言葉に、下げようとしていた面を上げて、王女の眉がピクリと動く。

「陛下が?」

 可憐な声音であるはずの王女から、地の底から這い出てきたような、なんとも迫力のある声が聞こえた。

「あ、うん。陛下も、こうなることを見越していたと思う・・・よ?」

 予想だにしていなかったメアリティア王女のドスの効いた声と表情に、セインやキャルの顔も引き攣った。

「殿下は聞いておられなかったので?」

 俄かに起こった王女の豹変っぷりに、一人冷静なのはラオセナル老だ。

「ええ。聞いておりませんわ。これっぽっちも!ひとっつも!何っにも!」

 握りこぶしで怒りを露わにする、この国の第三王女は、いたくご立腹のようである。

「それでは殿下。陛下でございましたら、そこな物陰にお隠れでございますから」

 口元につけていたカップを優雅にソーサーに戻して、にっこりと微笑むラオセナルの促した視線の先を、王女とちっちゃな賞金稼ぎが、勢いも鋭く、ぐるんと振り向いた。

 一生懸命、口元に指を立てて「しー!しー!」なんてやっている国家最高権力者が視界に入れば、客人としてお呼ばれ中の賢者は、メガネのフレームを押さえて溜息をつく。

「ば!何をバラしておるのだ!しー!だ!しーっ!」

 あわあわと両手を振るガンダルフ国王に、ラオセナルは更ににっこりと微笑んでみせる。

「陛下。ぼっちゃん?こちらの様子を隠れて窺うとは何事でございますか。立ち聞きとははしたない。お遊びも程々にいたしませんと、私の屋敷への立ち入りを禁止いたしますよ?」

「ええ〜」

「ええ〜じゃありません」

 怖い。目が笑っていないのに、慈愛に満ちたような笑顔のラオセナルが怖い。

「ラオのおじいちゃん?王様がふざけた王様なのは今に始まったことじゃないわ。落ち着いて?」

 そっと、キャルがなだめてみる。

「フォローになって無いぞ娘!」

 ガンダルフがわめくも、事実なので仕方がない。

「お父様?」

 父王の前に、娘が仁王立ちになる。

「はい?」

 隠れて腰をかがめていたので、ガンダルフは自分の三番目の娘を見上げる形になった。

「立ち聞きなんて国王陛下がされる事ではございませんわ。さ。わたくしがこれ以上怒らないうちに、こちらへお出で下さいまし」

 メアリティアのにっこりとした微笑みが、ラオセナルの笑顔より恐ろしく見えるのは気のせいではないだろう。晴天だというのに、なんだか、特大の雷が鳴り響いているように思える。

「分かった。分かったから、そんなおっかない顔をするでない」

 すごすごと、背中を丸めてガンダルフが隠れていた壁の影から出て来ると、王女の眉がピリッと跳ね上がった。

「お父様!お行儀!」

「ふあい!」

 猫背を指摘されて、ガンダルフの背筋が伸びた。

「なんじゃーもー、ますます王妃に似て来よってからに」

 ぶつぶつ言いながら、それでも娘の言いつけどおりに、ちゃんと背筋を伸ばして歩き、ガンダルフの背後で一緒になって隠れていたのであろう、近衛のクルトが何時の間にやら王の為に用意した椅子に腰かけた。

「最初からいらっしゃるならいらっしゃると仰って下されば宜しいのです」

 まだ怒っているメアリティアは、綺麗な唇を尖らせて自分の席に着くと、父の為の飲み物を、側仕えの使用人に頼んでから、ふう、と一息ついた。

「さあ。洗いざらい全て吐いていただきますわよ陛下」

「わあ。一国の王女のセリフじゃないぞ姫よ」

「王様のセリフでもないわね」

「キャルは少し黙ってようね?」

 何もしていないのに結託したかのようなキャルと王女の言動に、セインもオズワルドも苦笑を洩らす。

 そうこうしているうちに、国王の目前には、ミント入りの温かな紅茶が運ばれる。

 ふわりと漂う爽やかな香りに、ガンダルフは満足げに頷いて、乾いた喉を湿らせた。

「まあ、なんだ。奴らが逃げるのは知っておったわ」

 おもむろに、ガンダルフが口にした。

「別に、逃げるだろうと踏んでわざと警備を弛めていた訳ではないぞ?相手が相手だしのう。一応、一国の王子で、国賓として招いてもおるしな。」

 ガンダルフがお茶菓子に運ばれたショコラに手を伸ばす。

「本来なら、招かれざる客を、わざわざ国賓で招くところが君だよね」

 呆れ気味にセインが言えば、ニヤリと悪人顔で国王が笑う。

「褒め言葉と取っておくぞ?」

「褒めてないけど、お好きにどうぞ?」

 軽く返せば、それなりに満足はしたようだ。

「お前さんに会わせたかったのはもちろんだがな。きな臭い不届き物を、こっちに誘き寄せて一度顔でも見てやろうかと思っておったしな。ついでに尻尾でも掴んでおけば、我が国の有利に事を運べるではないか。一石二鳥ということじゃ」

 そうなると、今回の出来事はガンダルフの思惑通りに進んだという事だ。

「ってことは、わざと泳がせておくつもりなんだ?」

 少し眼を見開いたキャルは、国王の考え方に驚いたようだった。

「そのつもりだ。家臣どもは一掃すれば良い事じゃが、予の民を誑かしおって。ザラムント王の度肝を抜いてやらんと気が済まん!」

 ドラテが大罪人でも身分は隣国の王位継承者である以上、下手に牢屋にでも入れて、裁判でも起こそうものなら、ザラムント側にこちらへ攻め入る隙を作る事になる。それこそ国際問題に発展させて、向こうを喜ばせてやる事になるのだから、そんなことはしないに限る。

 王子は王子らしく、ただし、見張り付きの客間に招いて過ごして頂く。

 例え厳重に監視したにもかかわらず、その部屋から逃げ出そうが構わないのだ。そうなれば、ガンダルフ側に攻め入る口実はいくらでも作ってしまえる。

「大方、ザラムントの国王は、胎に一物も二物も飼っとる王子を使って予の国を内部から引っ掻き回して崩壊させたかったのだろうの。それを、肝心の王子には知らせずに、息子の野心を上手く利用しようとしたのだろうがな。全部逆手にとって、裏目に返してやったわ」

 ミントティーを口にして、不敵に笑うガンダルフは、国王に見えなくとも国王なのだなと、キャルは変なところで納得する。

「ところでガンダルフ王」

 にこりとセインが微笑んだ。

「なんじゃ?」

 国王がきょとんと首を傾げる。

「彼らが逃げたのは、今日のいつかな?」

 テーブルに両肘を突き、手を組んだ上に顎を乗せ、セインが更に笑みを深めた。が、しかし。

 ただの笑顔が、やたらと迫力があるのは何故だ。

「う、うむ?えー、いつだったかなあ?」

 圧迫感にガンダルフが眼を泳がせる。

「今朝がた、世も明けきらぬ頃に、見張りの交代時間を狙われましたわ」

 歯切れの悪いガンダルフ王に代わり、メアリティア王女が応えた。

「姫!何故バラす!」

「お父様。狙われるのは我等王族はもちろんのことですが、不届き者のそもそもの目的はセイン様だとお聞きしておりますわ。まだ脱走した罪人が城内に潜んでいるかもしれないのですから、正直にお伝えするのが誠意というものです」

 ぴしゃりと言いきった娘に、父は口を尖らせた。

「なんじゃー。油断した所に襲いかかって来たら捕まえてやれたのにのおー」

「お父様?!セイン様を囮にしようとされたのですか!」

 怒る王女には申し訳ないが、もともとセインとキャルは謀反を起こした家臣や地方役人その他諸々と、一番の目的であるザラムントの王子とその従者を誘き寄せる囮として呼ばれて来ているので、今更と言えば今更だった。

「ちゃっかりしている王様と、しっかりしている王女様って、案外この国はこれでバランスがとれているのかもね」

 キャルがうんうんと、頷きながら納得しているので、ラオセナルが溜め息をつく。

「坊ちゃんが坊ちゃんですからね。周りの人間が自然に結束を固めると言いますか」

「なるほど」

 また何やら納得しながら、キャルはもくもくとお茶菓子を口に運ぶ。

 ガンダルフは普段が普段なので、一見とても王様には見えないが、次々と改革を打ち出し、国を導いている。

 国民の評判は上々で、他国からもガンダルフを慕って移民が流れて来るくらいなのだから、その賢朗っぷりは国の内外に関わらず響いているのだろう。

 民衆から見れば、賢君の部類に入るに違いない。

 演劇では彼を誉め讃える演目に人気が集まるというのだから、実物を知らないという事は恐ろしい事だと、ラオセナルがいつぞやぼやいていたのを、セインもキャルも、親子喧嘩を傍観しながらこっそり思い出していた。

 出されたお茶菓子を、リスみたいに頬にいっぱい溜めこんだキャルが、最後のお茶を飲み下すのを待って、セインが立ち上がる。

「じゃ、ガンダルフにもメアリティアにも会えたし、そろそろお暇しようか?」

 元々、長居をするつもりはない。

 城に顔を出したのは、ドラテとバルバロッサの動向が知りたかったからだ。挨拶が目的というのは建前である。

 目的の情報は手に入れた。

「もうお発ちになられますの?もう少しお話もしたかったですわ」

 来たかと思えばもう帰ってしまうのかと、アメリティアが寂しそうにキャルを抱きしめた。

「お姫様良い香り!」

「ふふ。庭でとれたお花のフログレンスですわ。気に入ったなら包ませますわ。お菓子も持って行って下さる?」

「え?いいの?!」

「はい。わたくしの料理長の作るクグロフは国一番ですのよ?」

「やったー!」

 諸手を挙げて喜ぶキャルに、王女はありったけの焼き菓子を包んで持たせてくれる。

「ありがとう。こんなに貰っちゃって、本当に良いの?」

 両手いっぱいの布袋に詰め込まれた焼き菓子の香りにご機嫌のキャルに代わって、セインがメアリティアに訊ねれば、王女は口元に扇を当てて微笑んだ。

「もちろんですわ!お二人へのご恩返しにはこれくらいでは足りませんもの。他に何か欲しいものがありましたら、すぐにご用意いたしますわ!」

「へ?」

 きょとんとしたのはキャルである。

 大きな眼を更に大きくして、王女を見上げた。

「超の付く便利な通行手形も貰ったし、足りなかった旅用のお洋服も貰ったし、お菓子と良い香りの香水も貰ったし、他に欲しいもの?」

 ことりと首を傾げるキャルに、メアリティアは頷く。

「そうですわ!爵位なんていかがかしら?勲位を付けて!」

 良い事を思いついたと顔を輝かせる王女に、

「えー。そうゆうのはいらない」

 と、キャルは口を尖らせた。

「そ、そうですの?」

 眉を下げるメアリティアに、キャルはにぱっと笑う。

「うん。いらないわ!だって、爵位貰っても私には役に立たないもの!」

「そうですの・・・」

 しゅんと項垂れるメアリティアに、慌てたキャルが、焼き菓子の入った袋をセインに押し付けて、王女のスカートにしがみつく。

「爵位って、貴族になるってことでしょ?貴族になったら、領地を貰わなきゃいけなくなるわ。そしたら、私はハンターだもの。旅が出来なくなっちゃう!」

「ハンターなんて危険なお仕事、おやめになれば宜しいのに・・・」

「そういうわけにはいかないわ!私、セインとも約束があるもの!」

「約束?」

 今度は、メアリティアが首を傾げた。

「そうよ!約束だわ!」

 しかしキャルは、自分で言った言葉に、殊更驚いたように飛びはねた。

「ねえお姫様?お姫様はいっぱい人と会うんでしょ?」

「ええ。お会いしますわ」

 頷く王女を見上げて背伸びする。

「だったら、エルドラドを知らない?」

「エルドラド?楽園の?」

「そう!楽園の!」

 メアリティアはじっとキャルの瞳を見詰めた。


 エルドラド


 醜い争いも無く、全ての人々が平等に暮らす楽園


 そんなもの、おとぎ話や宗教上の想像物でしかない。いかにメアリティアが世間知らずだとしても、それくらいの事は知っている。

 しかし。

 キャルの瞳は真剣そのものだ。

「エルドラドは、お話でしか聞いたことがありませんわ。でも」

 それに近い噂話くらいは聞いたことがある。

「お役に立てるかどうかは分かりませんけれど」

 メアリティアはいくつかある国立図書館のうちの一つを口にする。

「お爺様の代に建てたものですけれど、現在はお兄様が更に手を加えて、伝承本を国の内外問わず収拾した趣味の図書館になっていますの。あちらでしたら、伝説や口伝えの物語を書に纏めたような貴重な資料が沢山ありますもの。きっと、エルドラドについて書かれた書物も見つかると思いますわ」

 国立図書館は数か所に建っていて、どれも収められている書物の種類に特化しているのだという。

 情報収集はどの国でも一大プロジェクトで、ガンダルフの治めるこの国もそれは例外ではない。数か所に散らばっているのは、書物が莫大な量に及ぶ事ももちろん、火事などで重要書類が一気に紛失してしまわないようにとの配慮であるらしい。

 それぞれに王家の誰かが管理し、時として趣味の蔵書となってしまう事もあるものの、大凡何か図書館に収められた情報を得たければ、持ち主に訊ねれば良い事になっていた。

 もちろん、禁書や閲覧規制の指定された図書以外は国民に自由に開示されている。

「それ、資料が膨大なんじゃ・・・?」

 セインがぽかんと眼を丸くした。

「ええ、ですけど、お兄様はどの書物がだいたいどのあたりに収納されているのか分かりますの。何せ趣味で、ご自分で収集したものが大半を占めますもの。お爺様の代からの蔵書も把握しておりますから、お聞きになると宜しいですわ」

「それは、・・・また凄い」

「あやつは生まれながらにして本の虫だからな!特に伝承というか、伝説やらおとぎ話やら神話なんかが好物でな。気になるなら行ってみるがいいぞ。連絡は付けておいてやろう」

 関心の溜め息を零すセインに、ガンダルフが楽しそうにクルトを呼び、了承もしないうちにとっとと息子宛ての手紙をしたためて使いを出してしまう。

「あれは予の四番目の息子で、名をバクトルという。地図はこれじゃ。んで、場所は此処じゃな。あいつは王子のくせに中々城へ顔を出さんから、たまにはこっちへ来るように伝えてくれんか?」

 ちゃっかりお使いまで頼まれた。

「ちょっと!王様!わたし達まだ行くとは言ってないわよ?」

 ぽぽぽんと、勝手に進められるのが気にくわないキャルは国王を睨んだが、国王は国王で、

「じゃが、行くんじゃろ?」

 などと確信を持ってにこりと笑う。

 ガンダルフの勝利の笑顔に、キャルは臍を噛んだが、行くしかないので唇を尖らせて頬を膨らませる。

「それから、これも持っていけ」

 小さなキャルの手の平に、ガンダルフは王の印であるモチーフが押されたチャームを持たせる。

「これを見せれば、バーティも父の友人だと認識するじゃろ」

 良く見れば、小さいながら純金で出来ているチャームは、確かに王家の象徴なのだろう。

「こんな高価なもの、もらえないわ!」

 慌てて返そうとするキャルに、今度はメアリティアが首を振る。

「持って行って下さいな。お兄様はちょっと偏屈ですの。お父様のお友達だと分かれば、ちゃんと相手をしてくれますわ」

「・・・どういう王子様なの」

 キャルはこれでも立派な女の子。

 世に言う所の王子様にはしっかりと憧れもある。何せ目の前の王女様は想像の通りに可愛くて綺麗だ。それくらいのキラキラしたイメージは、出来れば捨てたくない。

「じゃあ、仕方ないから持って行くわ」

「おう。ちゃんと返せよ」

「え、セコイ」

 当たり前だというような王様に、つい本音が出た。

「誰もやるとは言っとらん」

「それはそうだけど。王様は国一番のお金持ちでしょ?」

「ふふん!予が自由に使える金なぞ、限られたものよ。何せ、予の稼ぎは民の血税じゃ。監視してもらってナンボじゃぞ?」

 何故か胸を張るガンダルフに、キャルは首を傾げた。

「言われてみれば、それもそうね」

「おう。金持ちに見えて、国王なぞ貧乏なもんじゃ」

「それはちょっと違う気もするけど」

 ガンダルフは国政が趣味の様な男なので、無駄遣いしないだけなのかもしれないが、予の王様とは、もっと自由に金銭を使えるものだと思っていただけに、ガンダルフの言葉は意外だった。

 しかし言われてみれば尤もだ。

 阿呆かというくらい豪勢な場所に住んでいるからと言って、それを建てたのは国民の血税で賄われている国の税収だ。そういう所に住んでいるのが王様であるのだ。

「わかったわ。あとで、返しに来る」

 キャルはちょっと憐れむ視線で国王ガンダルフを見上げた。

「その視線はちょっと傷つくぞ」

「ダイジョブよ!王様国民に好かれているもの」

 そう言えば、ちょっと驚いたように眼を丸くして、それから照れたように頬をかく。

「そ、そうかの?予は好かれておるか?」

 照れたガンダルフに、キャルは思い切り頷いてやった。

「そうよ!町で王様の悪口を言っている人を見た事ないわ!どうしてか褒め言葉ばっかりなのよね?」

「そりゃどういう意味じゃ」

「実物はこんないい加減なのになあって意味よ」

「それは言い返せぬ。よし、予も、何故そなたが楽園なんぞを探しているのか聞かないでやるとしよう」

 小さなヘッドハンターの少女と一国の王様は、二人で眼を見合わせた笑いあった。

 そんな二人の横で、照れたガンダルフ王なぞと世にも珍しい現象を目にしたオズワルドとセインとメアリティアが、驚いて固まっていた事はクルトだけが知っている。





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